はやて×ブレード #29 「アクロス・ザ・ユニバーカ」

 
 
 
 
空気の読めない玲一に連れられた紗枝は玲を残し、決闘場から去った。
それを追い掛けるはやて。
 
ひつぎ会長に
 
いいの? 刃友を欠いてしまって
 
そう問われ、あんたの知ったこっちゃないと言い切る玲に対し、当事者でないにもかかわらず、はやては止まらない。
 
「刃友はっ、勝つのも負けんのもふたりでいっこ。かたっぽがどこにもいなくなって、ほんでひとりで勝ったり負けたり。刃友イミないですやん」
 
刃友の存在意義とはこういう事なのだ。
はやてを追いながらその叫びを聞いたじゅんじゅんが(夕歩はちゃんといっしょにいます)と胸中で呟いてるのが小さいコマながら非常に印象深い。
 
 
決闘場から伸びる通路にいたナンシーは玲一に連れられ歩く紗枝と二、三言ほど言葉を交わすが、止める義理がないからか、制止はせず。
 
ただ、見送りながら呟いた。
「やっぱイイトコ育ちはヤワいっつーか、アタマ固ぇっつーか。マシな奴らかと思ったら、ありゃ下手すりゃ天地の誰よりも――」
 
 
 
 
 
ひつぎ会長「どアホウ」
 
 
 
 
言い切ったー!!
しかも大ゴマ使って。
ひつぎ会長は時々、大ゴマで台詞あるのが最高だね。
 
「認識を誤っていたわ。あなたはバカではなくてどアホウよ」
 
言いながら、ひつぎ会長には怒りマークが。
台詞は馬鹿馬鹿しいが、玲が「どアホウ」だった事に対して本気で怒っているらしい。
 
「バカもいい。阿呆も素敵。でも、どアホウだけはNO」
 
何がどう違うんだと訊かれたのを解らずとも結構。己の事すら解ろうとしない人間ではそもそもが無理だと切り捨てるひつぎ会長が再度の大ゴマで宣言する。
 
 
 
始めましょう。あなたの言う『終わり』。わたくしも予告通りぶち壊すわ。
そして全てを浄化し、なにもかもをバカへと返すわ
 
 
 
何だろう、この熱い流れ。
ひつぎ会長がいくら強くても状況は決して有利ではない。
玲と戦い続け、一時的に紗枝も加わって二対一で戦って疲労感も尋常じゃない。
左脚もいつ壊れてもおかしくない。
 
なのに、ひつぎ会長の表情からは敗北など全く見えない。
見えるのは強い意志のみ。
副管理人はひつぎ会長を好きになって本当に良かったとまで思った。
 
 
そして、ひつぎ会長の台詞と共に頂上戦が最高潮に達しようとしている中、玲一と紗枝の前に久しぶりに登場するファミマリ仮面というギャグの塊。
シリアス最高潮の時の決め台詞の背景でギャグをやる。
このセンスは素晴らしいの一言に尽きる。
 

私の救世主さまの作者である水無月先生はシリアス展開で急にギャグを入れて空気を弛緩させるが、林家先生はシリアスのままギャグをやるので空気があまり弛緩しない。
 
 
 
同じような側にありながら両極端という両者ですが、副管理人はどちらも好きです。
 
 
 
 
 
玲はひつぎ会長と対峙しながら“ムカツク奴”だと改めて思った。
“つくりもの”の左脚に負荷が掛かる斬撃を繰り返せば膝をつくだろうと長時間粘った。
だが、ひつぎ会長は倒れない。
壊れた脚でまだ立っているのだ。
それどころか玲が打つ手なしに近付きつつあるのだ。
そんな現状に思わず笑ってしまう玲。
 
玲「参ったよ。あんたって人間はさ、こっちだどれだけ積み上げても、ハナほじりながら楽々飛び越えちまう」
ひつぎ会長「わたくしは鼻など掘りません」
玲「喩えだよ。拾うなよ今、そーゆー所を」
 
一向にマイペースを崩さないし、崩れないひつぎ会長最高だね。
 
玲「その変な余裕も完璧だからだ。綻びが見つからねー。あんたは本当に全部持ってる」
 
そして玲の心の底からの本音と共に激突は再開される。
 
 

玲「――ひとつくらい、あたしにくれよ……!!」
ひつぎ会長「どうぞ、削ぎ奪ればいい」
 
 
 
次の瞬間、同時に後方へ吹き飛ばされる二人。
おやびんには見えず、みのりが呆然として食べる手を止め、ジャッジも相討ちを疑うほどの攻防。
剣の疾さ、そして重さ。
両者のそれが完全に並び、それを同時に繰り出せば反発で互いに後方へ吹き飛ばされるは必至。
こうなってはもはや精神力で上回った方が勝つしかない。
少年漫画に良くある展開だが、戦っているのは少女達。

ひつぎ会長は無敵超人を体現したかのようなキャラだが、それに追い付いた玲の執念は凄まじいなどと生易しい言葉で語れるレベルではないだろう。
 
 
 
決闘場での激突の裏で激突していたのは玲一とはやて(とじゅんじゅん&綾那)。
 
玲一「どきたまえ」
はやて「どかぬ!!!」
 
 
小学生の会話か、お前ら。
いや、はやては中学生で普段の思考回路は小学生とあまり変わらんのだけれど。
 
 
紗枝が止めようとするがはやては聞く耳を持たない。
何故ならはやてはバカだから。
深く考える事をせず、おかしいと思ったり気に入らなかったら相手の事などお構いなしに突っ走る。
玲の刃友である紗枝が試合を行く末を見届けず去る事など納得できない。
はやてのバカはここぞという時に異常なまでに効果的だから凄いもんだ。
 
 
はやてと玲一が押し問答している間にゆかり、槙先輩、桃香、五十鈴に乙葉に未知が一挙に集結。
親族といえど無許可立ち入りが厳禁の為、警察を呼ぶと冷静に対応しようとしているゆかりの横で
「この私と一対一で」
とか言ってる槙先輩。
 
 
…………あれ? みずちさんと蒼ちゃんは?
 
 
 
そんな副管理人の疑問を余所にひつぎ会長と玲の戦いはさらに勢いを増して行く。
何度目かの激突でも両者は崩れない。
だが、健康体の玲と左脚が壊れているひつぎ会長では差異が生じて当然。
 
後がないと自覚している玲はひつぎ会長へ猛追をかけるがひつぎ会長は崩れない。
本当に左脚が壊れているのかと疑ってしまうほどだ。
殆ど右足だけで戦っているのにもかかわらず玲と互角のひつぎ会長の強さは凄まじい。
 
「まだ、か!!!」
 
未だに折れないひつぎ会長に苛立ちを隠せない玲だが、この瞬間、副管理人は玲の敗北を確信した。
まだ、などと後ろ向きの感情を抱いた状態でひつぎ会長に勝てるわけがない。
 
 
そして、次の瞬間……!!
 
 
 
 
繰り出されるひつぎ会長の拳。
まさかの打撃攻撃ですよ!
 

顔面に拳を受け吹き飛ぶ玲だがひつぎ会長の攻撃は止まらない。
襟首を掴んで一本背負いの要領で玲を地面に叩きつけるひつぎ会長。
ただし、片腕一本で。
 
まともな受身も取れないまま叩きつけられた玲だがトドメの一撃を放とうとしたひつぎ会長の顔面へ反射的に蹴りを叩き込む。
 
これにはたまらず血を流しながらのけぞるひつぎ会長。
もはや剣の戦いなどではない、純粋な暴力の衝突。
封神演義太公望と聞仲が殴り合いしたり、マテリアル・パズルのメモリア魔法陣決勝戦でミカゼとチョーさんが魔法もクソもない殴り合いしてたのを彷彿とさせる展開だ。
 
 
 
これが頂上戦。
それこそ紅愛の時のそれが児戯にも等しい純粋なぶつかり合い。
 
『あははははははは』
 
笑う。
ひつぎ会長が。
玲が。
笑いながら剣を繰り出し攻防を繰り広げる。
血を流しながら。
 
 
その光景はヘルシングに出てもおかしくないような光景。
 
何よりひつぎ会長が楽しそうに笑っている。
頂上戦開始時には静久、玲、紗枝の瞳が真剣な色を浮かべる中、一人だけいつも通りの瞳だったひつぎ会長が、心底楽しそうに笑って戦っている。
 
正直、ひつぎ会長をそこまで楽しませられる玲には嫉妬を覚えた。
 
 
静久は言う。
極めて正常運転だと。
そしてひつぎ会長が勝つと。
 
 
そして紗枝は言う。
玲が勝つと。
玲はひとりでも必ず勝つ。
だから自分は帰るべき所へ帰るのだと。
 
 
だが、紗枝の脳裏を一筋の疑念が浮かぶ。
天地を奪った後、玲はどうするのだろうか、と。
そして玲は思う。自分はこのあと、どうするのだろうか、と。
 
 
 
はやては言う。
「今」だと。今があれば後や先はどうでもいい。
 
だが、その言葉も紗枝には届かない。
ここで先刻の玲敗北の予感はより濃くなった。
ひつぎ会長が大ゴマ使ってまで「どアホウ」と言ったのは、恐らくここではないだろうか?
 
静久が去る時、ひつぎ会長はこう言った。
「また最初から」
だと。
 
それは敗北の先の話。
だが、玲と紗枝はどうだろう。
頂上戦の先が見えているのか?
恐らく見えていない。
勝った時の事も負けた時の事も。
 
 
 
ひつぎ会長がついに体勢を崩し、玲が剣を叩きつける所で今月は終了したが前述の理由から、玲は負けるのではないだろうか?
ひつぎ会長は仮に負けても
「また最初から」
静久と肩を並べやり直すだけだろう。
 
 
だが、玲と紗枝は見えていない。
先が。未来が。
 
ならばどうするか?
 
負けて吹っ切れさせるしかないのではなかろうか?
負けなければ吹っ切れて見るべき物が見えるようにはならない。
紅愛がそうだったように、玲達は負けなければならない。
彼女達自身のために。
 
そう思った副管理人でした