ハヤテのごとく! 第290話 「ガンダーラは求めれば遠ざかるように出来ている」

 
 
 

前回のレビューですが、タイトルのネタを知らないままにしてたら管理人の丸太さんがネタ元解説を軽く挟んでくれてた。
どうもありがとうございます。
 
ちなみに今週のタイトルのネタ元は昭和の音楽グループであるゴダイゴの有名曲だろう。
今の中高生はたぶん知らないだろうなぁ。
まあ、そんな小ネタはさておき本題です。
 
 
 
 
 
自分の思い描いている夢は、
いつか現実になるのだと思っていた。
 
今は認められなくても、
自分が天才なのだから、
いつか万人に認められる日が来るのだと思っていた
 
自分の未来を、疑った事などなかった。
 
 
 
 
前回、プロである足橋先生の漫画原稿を見た瞬間、己の未熟さを知ってしまったナギ。
彼女のそんな独白で始まった今週のハヤテ。
 
 
 
これが才能。これが天才。
これが天才だとすると私は――普通の人だ……!!
 
 
 
今までナギは自分の実力をそこまで正常に認識してはいなかったものの、漫画家を目指すという事をアイデンティティーとして来た。
だが、足橋先生の原稿を見て悟ってしまった。
 
自分には才能がないと。
 
 
足橋先生が原稿を完成させた所で、その現実と向き合いたくないナギはそそくさと退散しようとするが、東宮君が横から無理やり手を伸ばしたせいで原稿がは足橋先生の目に届いてしまう。
それを見て足橋先生が浮かべた微妙な表情はナギの心を爆発させ、その場から逃げ出させるには十二分に足るものだった。
 
 
 
現実も
真実も
本当の自分も
実力も
 
何一つ私は見たくないんだ……!!
 
 
 
 
一方、ナギが逃げた後の足橋先生の仕事場では東宮君と足橋先生がナギの原稿を眺めていた。
 
東宮君「近年まれに見るヒドいまんがですね」
足橋先生「この1ページしか見てないからなんとも言えないけど、なかなか理解が難しそうなまんがみたいだね」
 
 
足橋先生はいいとして、東宮君などは酷評もいい所。
そんな東宮君から原稿を奪ったのはその場に残された西沢さんだった。
 
 
「本人が見せたくないって言ってたものを勝手に見て
そういう言い方をするのはよくないんじゃないかな?」
 
 
 
よく言った。
続けて西沢さんは足橋先生に言う。
 
 
「今日は本当にすみませんでした。先生にまんがを読んでもらうために来たんですが、
どうもナギちゃんはこのまんがをまだ読んでほしくないみたいなので、
今日のところはこのまま持って帰ります。
けど、いつかナギちゃんが、先生に見せたくなるようなまんがを描く事ができたなら、
今度こそちゃんと読んでもらってもいいですか?」




西沢さん、あんた最高だよ!!
前回までは漫画に疎い西沢さんが何故、いるのかと理解できなかったのだが、このためだったのか。
ハヤテではナギに近すぎるが、西沢さんなら程よい距離感の友人としての立ち位置だからこそ、こういう発言ができるのだろう。
 
そして、ハヤテ達が去った後で、先日も似たような事があった、と呟く足橋先生。
ひょっとしてルカだろうか?
回を重ねるごとにニアミスしつつある両者が第268話の冒頭にどう繋がるのかは読者も気になっている所だろう。
 
 
 
 
そして、場面は再度、ナギへ。
走って走って走り続けた。
普段、100メートルすら満足に走れないくらい体力がないナギを突き動かしたのは恐怖。
自分が才能のない人間なのだという現実に対する恐怖だった。
走り続けていつの間にか三千院のお屋敷の前に辿り着いていたナギを迎えに来たのはマリアさんだった。
 
優しい表情を浮かべた彼女に何をそんなに怯えているのか、と問われてナギは感情を爆発させる。
 
 
 
 
 
「絶対に手に入ると思ったんだ。夢を叶えるのが難しいと言われても
自分だけは特別、別格。私はその他大勢とは違う。
だからどうあれ自分の夢だけは叶うと……。疑った事なんてなかったんだ。
 
でも違う!! 私もその他大勢の一人だ……!!
夢を叶えるのが難しい側の人間だ。
どうしよう……。
 
現実も才能もまったく見ていなかったのに、私は自分の夢が必ず叶う事を前提に生きてきてしまった……。
まんがの才能がない私に、なんの価値があるというのだ!!」
 
 
 
そんな自暴自棄な台詞を吐き続けるナギに対してマリアさんがかけたのは叱咤激励でも慰めでもなく、
 
「それでも私もハヤテ君もあなたの側にいますよ」
 
という言葉だった。
この台詞で多少なりとも落ち着いたナギはアパートの帰路につく。
 
しかし、それは単にアパートまで帰って来たというだけでナギの問題は何も解決していない。
それを熟知しているであろうマリアさん
 
「ああいう風に落ち込むと、なかなか立ち直れない子ですから、しっかり見ててあげてくださいね」
 
と、ハヤテに一言だけ告げる。
 
 
 
 
今週、ナギが経験した明確な挫折。
流石にショックが大きいのでナギ自身、まだ逃避気味ではあるが、これに向き合わなければ次はない。
そもそも何故、今まで新人賞に落選を繰り返していたナギがこれほどまでにショックを受けたのか。
 
それはひとえに三千院ナギという人間が現実を見る機会がなかったからだと言える。
落ちるのは自身の才能が理解されないから、と自己完結していたナギは自身の作品のどこに問題があるのかを考えず、ハヤテもナギの事を考えて明確に指摘をしなかった。
無論、ナギの為を思えば厳しく指摘すべきだったのだが、今となっては些細な問題である。
 
 
さらに、自身の作品の未熟さと言う事実をナギ自身が気付いていなかった。
先週と今週の流れを見る限りでは技術的に新人賞で通用するレベルだと思い込んでいたのだろう。
だから技術を集中的に鍛えることもしなかった。
無論、素人に比べれば、ちゃんと絵が描けているだけあってマシだし、ああいう画風ですと言われればそれでいいのかも知れない。
だが、プロットの構築を含めた全体的な技術力がどうなのかは読者ならよく知っている所。
 
 
今回の挫折は精神的にはかなりのショックだっただろうが、漫画という媒体に向き合う上で、いつか通らなければならない道だった。
あくまでもナギの問題として処理されはしたが、ある程度の才能が必要とされる創作の分野を目指す人間にとって、今週の話は耳が痛い部分もあったかも知れない。
 
 
 
血反吐を吐き、のた打ち回ってもいい。
現実と向き合い、切磋琢磨する事を決意した上での進化。
ナギがこれを無事にクリアできるかに全てがかかっていると言っていいだろう。
ただ、漫画は無理だから同人で、という安易な切り替えだけはして欲しくない。
あくまでも経験を積むための場としての同人活動であってもらいたい。
 
ルカとの出会いから次の挫折を経験するであろう事も示唆されているが、それに何とか打ち勝って貰いたい所。
 
 
そしてもうすぐ300話だが、100話毎に恒例となっている、ナギの作品を載せるという手法が、ひょっとしたら今回、初めて意味を持ってくるのではないだろうか?
残り10話以内に進化を遂げたナギが自分の未熟さを理解した上で、ちゃんと仕上げた本当の意味での渾身の一作品。
それを節目に載せるというのは従来と異なり、大きな意味を持つだろう。
 
 
 
300回記念に向けて1話ずつ着実に進んでいるハヤテのごとく! という作品。
次週は恐らく挫折のターンなので少々、空気が重そうではあるが大切な部分だけに注目したい。
 
 
 
ただ、一つだけ気になっているのは今週の掲載位置が若干、後ろだったこと。
ハヤテの読者はシリアスよりコメディ重視なのか? という懸念が湧き上がる。
アテネ編もそうだし今回の漫画の話もそうだが、キャラクターが前に進む上で重要な回だけに先が非常に気になる流れだが、ハヤテのシリアス展開を不要と論じる人もいるのが現状。
いろんな作品のパロも面白いが、やはり不条理ギャグ漫画ではない以上はストーリーがあり、シリアスもあれば笑いどころもある。
 
 
ナギがハヤテは自分が好きだと考えている勘違いがいつ解消されるのか、という部分を含めてシリアス抜きに処理できない部分もある以上、今後もシリアス展開は幾度となく出て来るだろう。
無論、望むラインは人それぞれだが、少なくともシリアス展開不要論には納得いかない部分がある。
 
 
 
何にせよハヤテは好きな作品なので、今後も拙いながらもレビューは続けていきたいと思いますのでよろしくお願いします